ゾっとさせられた。
人が多い。しかし上海の人の群は不思議だ。黙々と歩く。無表情である。ヒトの肉声が聞こえない。街を歩けば歩くほど、見たいものが見えないもどかしさ。出会いたいものに出会えない欲求不満が募っていく。街は、人々は、何かをかたくガードしている。(『全東洋街道 下』藤原新也・集英社文庫)
片づけものをしていたら、久々に本書に再会した。そこで、なんともなしに寝床で再読を楽しんでいたところ、ゾっとさせられたというのが、上の引用部分である。
一昨年、広州から雲南省を経て成都までの汽車旅を楽しんできた。ほんの数日間、それもごくごく微細な小旅行である。
それでも、あれこれ印象に残ったできごとはあったが、総じて感じられたのはつぎのようなことであった。
中国人ってのは、もっとやんちゃかと想像していたのに、このおとなしさはなんなのだろう……。
たしかに、広州駅前などの賑わいには圧倒されるものがあった。広大ともいえる駅前広場を埋め尽くすように行き交うひとびとの群は、明らかに日本のそれとは異なる迫力があった。だが、熱が感じられなかった。生気に乏しいような印象を受けた。同じアジアの外国である韓国やタイ、あるいはベトナムとも異なる。もとより、上に引用した上海の現在や北京などではまた違った感想を抱くのかもしれないが、ちょっと意外な思いにかられたのも事実である。
「ゾっとさせられた」というのは、著者が歩いた時代の上海に現代ニッポン(とりわけ東京圏)を重ね見てしまったからである。
本書でつづられている旅の時代、中国では外国人旅行(中国人もであろうが)の旅行は事実上自由化されてはいなかった。著者もまた、ひとり旅であるながら通訳と案内人という肩書きの監視人がふたりもつき添うという囚人さながらの上海滞在を強いられたらしい。対する日本ではそんなことはない。外国人であろうと日本人であろうと、国内を自由に行き来できるし、さしあたり理不尽な制限があるワケでもない。
旅行云々(うんぬん)はさておいても、中国という国に社会主義国特有ともいえそうな、市民抑圧があることは否定できないであろう。街を歩けば、そこここに公安の姿が見られる(まださほど混雑していなかった駅待合室のベンチで脚を組んでいて、駅員に注意されたのも印象深い。まぁ、こんなのは社会主義とも抑圧とも関係ないのだろうが、少しばかり「やんちゃでない」その背景を窺ったような気がした)。
ささいな一例を挙げれば、現地で知り合った中国人とカタコト会話を楽しみつつ、彼女が愛用しているスマホを使い、地図サイトでわが家の場所を教えようとしたら、遮断されていて、われわれのコミュニケーションにまでつかの間の空白が生じてしまった。ウワサは本当なんだなと思った。
抑圧下の中国人大衆とニッポンジン。その両者に類似の印象を重ね見たというのはどういうことなのだろう。どうもわが祖国の明日といってもいいほどの近未来は、中華人民共和国に近寄りつつあるのではあるまいか? その名も朝鮮民主主義人民共和国と同様に、もはや詐欺かジョークとしか思えない自由民主党という名のカルト政党の暴走。その行き着く先は、かつて藤原が出会った上海人の群のような社会なのではないのか。「ゾっとした」というのは、まさにそんなわが祖国のザマを感じ取ってのことなのである。
そんなさなかではあるが、この大切な祖国にも真の意味での「出世者」といいえる官僚が存在するというのは、まだしも明るい材料かもしれない。
この勇気ある志士を指して、やれフーゾク店に通っていただのと筋違いの個人攻撃の末、批判されるや頓珍漢な逃げ口上を紙面で開陳し開き直っている“クズ紙”がある。件の官僚がそうした店を訪問していたのは事実らしいが、どうやらそ“クズ紙”が揶揄するのとは異なり、現代ニッポンの断面を彼自身として捉えるその過程であったようだ。
仮に“クズ紙”の揶揄が正当であるとするならば、たとえば冒頭で引用した藤原新也は渋谷でタマタマ遭遇した若い女性に興味を抱き、彼女が勤めているフーゾク店(出会い系云々──うんぬん──などではなく、もっと直接的な“サービス”を販売している類)に赴き、その本人との対話をしている場面などが、著作『渋谷』(文春文庫)でつづられているのをどのように解釈すればいいのか。そこでは、見事に現代ニッポンの側面が切り出されている。それぞれの視点の違いはあるかもしれないにせよ、この『渋谷』と“志士”前川喜平前文科学事務次官との間には、共通するものが多々あるとオレは見る。
●参考リンク:
官邸の謀略失敗? 前川前次官“出会い系バー”相手女性が「手も繋いだことない」と買春を否定、逆に「前川さんに救われた」と(リテラ)
それにしても、権力者と仲良しであれば裏取引でなんでもできかねないニッポン。数で押し切れば話し合いどころか憲法でさえクソ喰らえとばかりの現代ニッポン。お隣・韓国と比べても、なんともみっともない国になってしまったものである(韓国における汚職もすさまじいものがあるが、アベ尊師夫婦がらみの一連の事件もまた「汚職」とはいわないのか?)。
そんな舵取りをしているアベ尊師政権。んなものを支持する連中の理想というのは、ようは選挙も議会も不要であり、国家の舵取りはすべて権力者による密室で一方的に決めてもらえばいいという解釈しかオレにはできない。庶民はツベコベ言わずに黙ってろと。うるさいヤツは全部「反日」だ。そんな世の中。ようは中世への逆行だ。
さきの中国はもとより、韓国など周辺諸国からの「日本は反省していない」という声は少なくない。いうまでもなく、先の植民地支配などについての主張ではあるが、オレもまったくもってそのとおりだといわざるをえない(部分的には「そんなことはない」と考えたいところだってあるが)。しかし問題は、その「反省していない」というのは、周辺諸国に対してだけではなく、わが祖国、日本人自身に対しても指摘しうる事実であり、このまま反省なきまま暴走してゆく果てに辛酸を舐めさせられるのは、ほかならぬわわわれ日本人であるということを見据えるべきであろう。
●参考リンク:
“腹心の友”…? 加計学園問題の核心(永田町徒然草)
あのアベ尊師が「でんでん」に続き祖国の母語でさえ理解できていない(嗚呼、「美しい日本」・笑)ことを自ら暴露した「腹心の友」。「そんな言葉、日本語にあるんか?」といぶかったものだが、偶然にして白川勝彦弁護士も指摘している。
●参考リンク:
沖縄基地反対運動の現場から発信を続けるラッパー大袈裟太郎さんの貯金がいきなり凍結された(日刊ベリタ)
推測含みの部分はあるが、少なくともこんな事態が跋扈してゆくとしたら、それはやはりアベ尊師暴走こそが背景にあるのだと断言する。
◎おまけ:
件の“クズ紙”を親会社とする某プロ野球チームが創立以来の大連敗を繰り広げているそうな。野球中継の類はほとんど(まったくに近い)見ないし、新聞記事もまた然りだが、ネットのヘッドラインなんぞに出てくるので、見出しを通じてそれだけを知っている。
痛快である。
もとより、スポーツと政治とは切り離して捉えるべきであろう。だが、その親会社がみっともないまでに(歴史的大恥をさらしながら)カルト政権の提灯持ちをしていて、その読者獲得のためにこのチームが利用されてきた事実からすれば、このザマはやはり痛快でしかない。延々と負け続けてろ!
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