「イスラム国」による邦人の拉致および殺人事件について、個人的に思うところは多々あるけれど、発言はこれまで見送ってきた。
流布され続けている幾多の発言のなかで、オレとして腑に落ちたのは写真家・藤原新也氏の以下のコラムである。
*Link:ジャーナリストの命の値段について。(Catwalkより)@Shinya talk
上記リンクは、このあと述べる所感にも関係することなので、ぜひお目とおしを願いたい。
さて、本題。
ネット配信記事につぎのようなものがあった。
<朝日の複数記者、外務省が退避要請のシリア入国
読売新聞(2015年1月31日13時33分)
イスラム過激派組織「イスラム国」とみられるグループによる日本人人質事件で、外務省が退避するよう求めているシリア国内に、朝日新聞の複数の記者が入っていたことが31日分かった。 同省は21日、日本新聞協会などに対し、シリアへの渡航を見合わせるよう強く求めていたが、朝日のイスタンブール支局長はツイッターで、26日に同国北部のアレッポに入り、現地で取材した様子を発信していた。(以下、略)引用ここまで>
この御用紙の書きっぷりときたらどうか。いわく
「外務省が退避するよう求めているシリア国内に」
であり、
「同省は21日、日本新聞協会などに対し、シリアへの渡航を見合わせるよう強く求めていた」
である(もちろん、それぞれ事実ではあろうが)。
同時に思い浮かべたのが、かつて雲仙普賢岳における大噴火のさい(91年)、ジャーナリストの鎌田慧氏が島原市が指定した「危険区域」内に立ち入って取材を敢行、書類送検されたという事件である。今回のシリアに関する渡航自粛とは異なり、災害対策基本法というエクスキューズが行政側にはあったが、当時、お行儀のよろしいメディア組織(おもに記者クラブ加盟組織の勤め人たち)が、こぞって鎌田氏の所業を批難。鎌田氏は不起訴になったが、彼らはジャーナリストとしての仕事、使命よりも自らの保身を大切にしたのであろう。それだけならいいが、ひょっとして、そこにはある種の嫉妬心がありはしなかったのか? あるいは予定調和でお互いの抜け駆けをしようもしない仲良しの輪を乱したよそ者に対するいじめかも?
*鎌田氏のような“インディーズ”がお気に召さないのであれば、あのNHKがかつて混乱下のソマリアにクルーを送って優れたドキュメンタリー番組を発表した。あの取材は、文字どおりの命がけだったのではないかと思うのだが。
さて、日ごろのこのY紙の姿勢からして言わんとしていることは想像できる。すなわち「お上がきめた規律を乱すなよ(この場合は強制力のない勧告にすぎないが)」であり、言い換えると「お上の言うことを守れよ」ということであろう。よくいるでしょう? ふだんの素行をさておいて、大人の前では「先生のおっしゃることは守りましょうね」という“いい子”が(いや、この場合は適当なたとえじゃないかな?)。
断っておくが、これが事実だとすれば、「なにを無謀な!」とオレも思う(少なくとも、オレにはそんな使命感も度胸もないし、己の分相応というものを自覚しているつもりだ)。これで仮に拉致でもされ日本政府との間でなんらかの交渉ごとの道具にでもされれば、またしてもあの醜き「自己責任」の大合唱となるに違いない。加えて、やおらとうの御用紙たちが嬉々として揚げ足取りを繰り広げるのは目にみえている。
しかし、にも関わらず、これはジャーナリズムの権利であるとも考える(義務や使命ではなく)。ここで、「お上(近ごろではこれに「大衆」が加わった感があり気味が悪い)がダメだから」と現場に背を向けるのは、自らの安全を確保するのと同時にジャーナリストとしての権利を放棄しているとはいえないのか。そもそもが──大きなお世話かもしれないが・笑──御用紙の勤め人にせよ、藤原新也氏が指摘するところの上位系カーストとして、まだしも身分を保証されてはいはしまいかと思うのだが。
そうしてその大切な権利を反故にして、他紙やその記者を揶揄するメディア(あるいは「大衆」)とは、いったいなんなのだろう。これは件の「特定秘密保護法」にも通ずる。たとえ、国家としての機密、その存在を認めるにせよ、このような乱暴な法に対し迎合するのであれば、これもまたジャーナリズムの権利の放棄ということになると考えるからだ。それとも、単なる嫉妬からなのか?
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