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猫池罵詈雑言雑記帳
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 資料探しをしていたところ、「アンドロメダストレイン」(原邦題「アンドロメダ病原体」)のリメイク版中古DVDを発見、こりゃ知らなかったと思いつつ注文してみた。
 作品は、1969年に発表されたマイクル クライトンのSF小説「The Andromeda Strain」をドラマ化したものである。1971年にはロバート ワイズ監督・プロデュースにより映画化されており、原作、映画とも個人的に大好きなSFのひとつ。それが21世紀(2009年)になってどのように再構築されたのか、興味を抱きながらDVDをセットしたのだった。

 ところがいけない。初出からおよそ40年の歳月は、アメリカ映画を本質的には後退させたのではないかとすら思ってしまった。
 リメイクの筋書きは、大雑把には原作に沿っていなくもないのだが、クライマックスが大幅に改変されているのにまずたまげた。以下、「ネタバレ」が含まれるので、これからみてみようと思う方はお読みにならないほうがいいかもしれない(先入観をスリ込まれるという点でも)。

 あらすじはこうだ。アメリカ合州国当局がなんらかの目的(機密)で打ち上げた人工衛星がアメリカ中部の田舎町に墜落、そこに潜んでいた謎の病原体がそこの村びとをまたたくまに死にいたらしめたというところから物語りははじまる。その対策に数名の科学者が召集され、文字どおりの秘密研究所内での分析が進められるのだが、この研究所は万が一生物的な汚染が発生した場合、自動的に核によって自爆をするというシステムが導入されている。作品の軸には当局がなぜこんな微生物研究所を秘密裏につくったのかという現実世界に照らし合わせた問題提起が含まれており、この点では本リメイクも暗示されてはいる。原作発表当時はまさに冷戦のさなかであり、核にせよ秘密の微生物研究所にせよ、けっして現実離れした設定ではなかったハズだ(ちなみに、リメイクではだいぶ省略されていたが、この施設と現代の「レベル4」と呼ばれる微生物研究室との類似性……実際には作品ほど大袈裟な施設ではないが……あるいは先取りのセンスには敬服するほかはない)。
 当局は汚染拡大防止のため、無人と化した田舎町を核兵器で焼き払う計画を立てる。原作および旧作では、たとえ自国内だとしても事前連絡なしに核兵器を爆発させることに伴うトラブル(核戦争など)のリスクなどが提示される。この背景には当時の冷戦構造があったと思われるが(同時に人類初の月面着陸なども)、リメイクではこのくだりはみごとに省かれており、決断を躊躇する大統領側と投下を勧める科学者側とのせめぎあいも当然のようになかったものとされている。やがて実行のゴーサイン。ところが、そのさなかに問題の微生物「アンドロメダストレイン」があらゆる物質をムダなく100%自らのエネルギーに代えてしまうという構造を発見、仮に核爆発が起これば、そこで発生する莫大なエネルギーをエサに無限に増殖してしまうことが明らかになったのである(ただし原作では、炭素と酸素と日光さえあれば生長できるという性質で描かれている。物質を直接エネルギーに転換、一切の老廃物を排出しないという設定)。この事実が研究所の自爆システムと密接にからまりあってクライマックスを迎えるわけだが、リメイクではすんでのところで投下を取り止めた原作および旧作とは異なり、核爆弾を搭載した飛行機が墜落してそれとともに核爆発が起きてしまうという筋にすげかえられてしまったのであった。
 さてどうなるか? つまり、クライマックスでは人間などを瞬殺するという「アンドロメダ」の性質がゴムなどの無機物を侵蝕するという具合に変質したため研究所が汚染、3分以内(リメイクでは15分)に自爆装置を止めなければ世界が破滅しかねないというスリリングな展開になるのに、まったくの中盤で核爆発を実際にさせてしまうのだから大変だ。これではクライマックスが原形を留めないことが明らかではないか(すでに大方の予想はついたが)。

 所感に移ろう。
 原作と旧作では、最後の最後に病原体が自然に無害化して難を逃れたという顛末で幕を閉じており、やや歯切れの悪い結末となっている。リメイク版では、おそらくそのあたりを意識したハズで、具体的な手段で駆逐に成功するという筋書きになっている(しかしその描き方はまったくもってお粗末極まるシロモノ)。そのくだりで、地球環境を無視した開発や人間のおごりといった面に疑問を呈するという仕立にもなっており、その点については原作の意図が加味されてはいる。また、研究所のなれそめや背後で蠢く当局の謀略という面は、むしろ旧作よりも明確に描かれているともいえるだろう。しかし、このリメイク版は、そうした表向きのテーマを台なしにしてしまうほど無神経な台本によっており、そこに現代アメリカの病巣を窺わざるを得ない。

 旧作では、研究所メンバーを含め、大半が白人で構成されていた登場人物が、黄黒白という具合に異なる人種が混在するようになっている点に、まずアメリカの進歩を感じた。しかし、中国系アメリカ人の科学者がほんの10年ほど前にアメリカに帰化した人物であり、かつては中華人民共和国当局のもと生物兵器の開発に携わっていたという設定はどうか。そのさなかに起きた事故を契機に自国の方針に疑問を持ちアメリカに渡って微生物(兵器?)の研究にあたる中国人科学者。あるいは墜落した人工衛生を指して「北朝鮮の仕業か?」。取材をとがめられ拘束された記者による抗議。「オレは中東のヤツらなんかとはつきあいがない」(だからテロリストなどというのは濡れ衣だ!)……。そこに兵士から差し出されるアラブ人らしき人物と街角で話をしている記者を捉えた写真。ちなみに「北朝鮮」云々は科学者らからも飛び出した推理である。ごくごく庶民的感情としては、あるいは無知な大衆の感覚としてはあるいは「北朝鮮」みたいな小国が大国アメリカ合州国に生物兵器を落下させるぐらいに思っていても不思議ではないかもしれないが、こういうのをとんだお笑いぐさとはいわないだろうか(韓国は現実に爆撃を受けているし、わが国上空にもミサイルだかロケットだかをぶっぱなした前科が北朝鮮にはあるが、それとこれとはレベルに隔たりがありすぎる)。こうしたやりとりをごく大雑把に解読すれば、現代アメリカ人の関心はテロにこそあり、アラブ諸国も北朝鮮も中国も、彼らにとってはテロリスト集団とイコールなのかもしれない。日本人をさして「核アレルギー」などと揶揄するバカがいるが、それならばさじずめアメリカ人は「テロアレルギー」になってしまう。自らがまいたタネを顧みもしない哀れな自家撞着……。
 原作および旧作発表当時が冷戦のさなかであり、宇宙探検華やかなりしころだったことと比較すると、彼らが当時とさして変わらぬセンスのままある種の怯えに囚われていることを窺わせないだろうか?

 もっとひどいのは、核爆弾を落とす直前の軍人のセリフである。いわく、
「ナガサキ以来だが大丈夫か?」
 ときは21世紀である(リメイクではモバイルなども盛んに使われているので、現代が舞台といっていいだろう)。いや仮に71年当時だったとしても、核爆弾を炸裂させるのが「ナガサキ以来」だとは……。この作品、アメリカ合州国国内を含む核兵器反対者からの抗議はなかったのだろうか。がしかし、これがごく一般的なアメリカ人の持つ常識なのかもしれない。しょせんはそのていどの連中が大半なのだ(核爆発の描写も、単に風が吹くていどで熱線の類がまったく無視されている)。

 しかしエンタテイメントとしての最大の欠陥は、本作がSF小説の名作を土台としていながら、できあがったものがとうていSFとは呼べないシロモノに化けてしまったことであろう。「アンドロメダ」がごく限られたpHのなかでしか生きられないという重要設定が基本的に無視され(まったく意味をなさない展開のなかちょっとだけ示唆されるのだが)、物質をムダなくエネルギーに変換できるという設定のもと核兵器を使用をストップするハズが、「放射能で増殖できる」という具合に変質されたという大いなる勘違い。まるで子ども騙しである。

 SFはなにをやってもいいというジャンルではない。たとえ描かれるのが大ウソであろうと、生身の人間が宇宙服も着ないで宇宙空間には出られないし、宇宙船を動かすにはなんらかのエネルギーが要る。放射能は物質そのものではありはしない。「時代劇」と「歴史ドラマ」との違いもそうだが、SFであらしめるために必須のセンスというものがあるわけだ。とどのつまり、本作はSFの名作をその根幹から見事にぶち壊した失敗作だということがいえる。アメリカでのウケがどうだったのかはわからないが……。

*補足:
 しかし、同じ殺人微生物を扱ったSFもどきとしてみた場合、「アウトブレイク」よりはよほどきちんとした作品には仕上がっているとはいえる。いずれなにかの機会に触れたいが、「アウトブレイク」ほど失望した駄作愚作も珍しい(前評判に騙されたオレがバカだった・笑)。SFという触れ込みではあるが、まったくSFになっていないばかりか、中途半端なアクション映画になってしまっている。あんな子ども騙しにもならないくだらない映画に主演するようではダスティン ホフマンも地に堕ちたものだと大きなお世話を感じたが、よくもまぁあんなのが国際的ヒットを飛ばしたものだと思う(ちょうどエボラ出血熱騒ぎが重なったという追い風があったにせよ)。
 それにしても。このところ輸入されて目立つのは“子ども向け”ばかり。大丈夫なのかアメリカ映画界は……というより、きっと優れた作品だってあるハズなんだがなァ?
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 ここではおもに時事ネタを中心に独断と偏見にて雑感を記してゆきます。本館サイトアトリエ猫池ともどもお楽しみください。
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