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猫池罵詈雑言雑記帳
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 百貨店売り上げの下降が止まらない。大手の合併が実施された時期を過ぎ、すでに規模の大きな閉店ラッシュの段階に達しており、ついさきごろも有楽町西武(東京都千代田区)が今年12月に幕を閉じるとの報道があったばかりだ。
 百貨店不振の背景については有識者を含めいくつもの見方が示されているが、ここでは百貨店の裏側に巣食う放慢体質について少しだけふれてみたい。

 自分自身が大学を卒業した時代は、まさにアブクゼニ経済の真っただ中であった。著名デザイナーブランドを含むいわゆる「DCブランド」ブームに湧いた時代でもあり、百貨店はもちろん、ファッションビルや路面店を含めそうした店が乱立、学生から若い社会人などを中心に、こぞって“割高な”ファッションが好まれていたのである(*注1)。
 百貨店では、そうしたブランドショップ(ハコ型)を誘致し、その販売の多くの部分や商品仕入れについてもメーカー任せというスタイルを定着させていっていた。すなわち、レジで現金やクレジットカードなどを扱うのは自社社員だが、接客の一切や商品管理の大半をメーカー担当者や販売員(多くの場合、派遣社員)任せというやり方である。在庫は基本的に自社在庫とはせず、帳簿上での在庫を持たずに売り上げのみを計上するいわゆる「消化仕入れ」とし、リスクを回避した(例外はある)。言い換えれば小売業ではなく不動産業が実態だといえるだろう。

 一方、そうしたハコ型店鋪をは別に、自社編集による売場も少ないながら展開された。「平場」と呼ばれる売場がそれで、こちらはDCの枠とは異なるメーカーによる寄り合い的な商品構成である。アイテムごとに「ニット売場」「ボトムコーナー」などと区分けするケースのほか、トータルにアイテムを揃えてコーディネートができる売場もある。
 平場では、通常は「係長」格の自社社員(マネジャーなど呼称はいろいろ)や本部バイヤーが中心となってシーズンごとの商品展開を構築してゆくので、そういう意味では自主編集的な色合いがあるといっていいだろう。仕入れに関しても「買い取り伝票」(とはいえ実態は返品自由の完全委託)を起こすケースが大半だったため、毎月の在庫と売り掛けは形としては「きちんと」計上される。ただし、販売に関してはハコ型と同様にメーカー任せの部分が大きく、小規模な郊外店などでの例外があるものの、ほぼメーカー負担の派遣社員の手によっていたといっていい。
「あたし、ホントは販売をやりたいと思ってこの会社(某百貨店)に入ったんです。お客さまにコーディネートのご提案をしたり、フィッティングをしたり、ディスプレイをしたり。でも、実際にやってることって、レジ打ちとか伝票整理ばかり。これでは……」
 これは実際にある都内大規模店の女性社員が語ったことである。つまり、ファッションの販売を志しても、百貨店という企業はそれを活かすことも叶えることもしなかったのであった。これでは自社の販売力が育まれるワケがない(*注2)。

 運営はどうか。
「ウチ(の売場)はオシャレ好きの若いOL(だけ)にお越しいただければいい」
 これはアブクゼニ経済最高潮のころにある売場係長が語った言葉である。平場の品揃えや演出にさいしてのコンセプトではあったが、その言のとおりハコ型とはまたひと味違ったみせ方で狙いどおりの顧客を掴んでいた。DCに比べて単価の安い平場で、1日の売り上げが1千万を軽く超えることすらあったのだから、ひとつの成功だったといえる。だがアブクの破裂を乗り越えたとは言い難い。コーナーの改装と踵を接するように経済状況に暗雲が立ち、あれほど殺到していた顧客がまばらになっていったのである。会社は担当替えを命じたが、後任はコンセプト云々以前に「まず売り上げありき」を使命としていたこともあって、オシャレに仕立てられていたハズの売場はあれよという間に場末のスーパーのように転落していったのであった。半年もして、客寄せ用に売場前に置かれたバーゲン品のワゴンの前には、若いOLどころかほかの買い物ついでのおばあさんが手を伸ばしているという状態になっていたのである。もちろん大切なお客さまではあるにせよ、本来あったハズのコンセプトがまたたくまに喪失されたがゆえの顛末であった。

 肝心要の商品の扱いについても極めてぞんざいな一面があった。返品自由をいいことに、在庫を粗末に扱い、ボロゾウキンのようにしてしまった商品を澄まし顔で返品するなどというのはまだマシなほうで、自分の女房だか愛人だかにくれてやるため売場主任が勝手に返品伝票を切って、モノはそのままフトコロに入れてしまうなどということもあった。梱包ごと一時行方不明になることもけっして珍しくはなかったし、そもそも納返品にさいしてきとんと検品をしない店もあったのだ。そんな有様なので棚卸しだってどこまで正確がどうか知れたものではない(某百貨店では、決算棚卸しにメーカー社員を呼びつけるという信じられないことをやっていた)。つまりはいい加減なのだ。

 こうした事実は、あくまで自分が体験した範疇でのことではあるけれど、少なくとも複数の企業にわたり、そのなかでさらに複数の店鋪に及んでいたものである。むろん「注2」で触れたようにそうでない店だってあり、業界のスタンダードがどうだったのかを示しうる話ではない。だが、百貨店が小売り店としての体力を失ってきたことは明らかであり、それに至る背景のひとつとして、ここで述べたような体質が想像以上にはびこっており、それがスキルアップを阻んできたのではないかという気がしている。航空機事故などにさいし、ひとつの大事故の背景に無数の兆候や問題の見逃しなどがあることが指摘されるが、百貨店業界の斜陽にもまた、現場が延々とみてみぬフリを決め込んできたインシデンツがあったのではいだろうか。
 さて、同じく斜陽が既成事実とされている出版業界はどうなのかな?


*注1:
 個人的に、この時代に好んだブランドが高田賢三氏が立ち上げた「KENZO」である。ライセンス生産していたのは日本のアパレレルメーカー「ライカ」であったが、いまは買わなくなったとはいえ、優れた製品が多かったという印象がある。素材を含むデザインの好みはそれぞれではあるけれど、いま思うとなにしろ品質がいい。ベーシックなセーターなど、学生時代(!)に購入したものがいまだ着用に耐えうるのだから驚きである。少ない小遣いや給料でけっして安い買い物ではなかったかもしれないが、いいモノにはそれ相応のカネを払う価値があるということであろう。

*注2:
 ただし、販売や在庫管理などを自社社員がきちんとしている店があったことも事実だ。季節ごとの商品展開も念入りにメーカーと打ち合わせをし発注量を決定、期中の売り上げ管理とともに追加や方向転換などを小気味よくやっていたものだ。そういう店ではメーカーの販売員とともに自社社員が販売にあたっており、総じて売り上げもよかった。だがしかし、最終的な在庫リスクに関してメーカー任せにしていない例は、ほんのひとにぎりの例外を除き皆無であった。
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