野球賭博とはなにか? 北尾トロ氏の『怪しいお仕事!』(新潮文庫)によれば、これがなかなかコクのある博打らしい。やり方にはいろいろあるとは思うが、ようは試合の勝ち負けをもって「あたり・はずれ」を競うゲームである。しかし、単純に勝ち負けを推理するのとは異なり、胴元との駆け引きといった博打打ち同士での心理戦の要素が高く、それがコクにつながっているようだ。
たとえば先発投手ひとつをとっても、これまでの成績にはじまり相手チームとの相性や前後数試合をからめたローテーションなどさまざまな要素があって組み立てられるけれど、胴元側がそうしたデータをもとにオッズを決めてゆき、そこにこそ勝ち負けのせめぎあいがあるという。賭金を張る側としては、試合カードそのものとともに胴元(オッズ屋)の実績や性格、そのときの腹のうちなどを勘案しつつ「投票」することになるわけだ。残念ながらやったことはないしやるつもりもないが、博打=ゲームとしてみた場合、たぶんに“面白さ”があるのではいかという気がする。
ところで、こうした博打は基本的には違法である。現実には仲間内で小銭を賭けてみたり、タテマエとしては現金の払い戻しがないとされているパチンコなどもお目こぼしにされてはいるが、これだって“運が悪ければ”立派にお縄を頂戴する。摘発されれば略式裁判などを経て前科がつくそうな。お目こぼし組のひとつである雀荘でときおりこうした“ガサ入れ”があるのもよく知られた話だろう。
今回、力士の博打が問題化したのは、まず第一にそれが暴力団がらみを疑われているからであり、第二にその額が数千万円を超えるらしいことがあり、第三が不祥事続きの大相撲ということがあるようだ。しかし、博徒という言葉があるとおり、博打はヤクザの既得権でありシノギであったのであろう。だから、そこに彼らが介在していてもなんら驚くには価しないと思うのだが、問題はそうした胴元がときに脅迫などをもって集金にいざこざを起こしたり、本来は勝手に賭に使われているだけの側に八百長を強要する可能性があるところにある。過去にいくつか明らかになったとされる八百長事件もあり、そうした行為の可能性を断つためにも、今回のような賭博を取り締まることの意味はあるのかもしれない。なにしろ違法行為として法にしばられていないだけに、その気と実力さえあればいかなるアンフェアなことだってできるハズ。しかし賭場などしょせんはそんなものではないのか?
6月16日づけの「東京新聞」が、「こちら特報部」でこの事件についてざっと触れている。書かれてあることはおおむね承知していた内容だったが、ちょっと面白い記述もあった。
これは、黒木昭雄氏(ジャーナリスト)のコメントとして挿入された一文だが、主格「暴力団」を取り除いて再読してみていただきたい。「広く客を集め動かす金も大きい」というのならば、むしろJRAをはじめとする合法博打の胴元のほうがより顕著であろう。つぎの「賭け金から取り分を除き、勝った者に払い戻す」だって一緒。力士がやっていた賭博は1割の手数料(テラ銭)を胴元に納める仕組みだったというのだが、ではさて競馬や競輪、競艇などにおける事実上の「テラ銭」はいかほどなのかという疑問が湧く。サッカーJリーグを博打材料に仕立て上げたtotoなど、売り上げのおよそ半分が払い戻しの対象外として召し上げられている。これほど“法外”な集金システム(博打)がほかにどこにあろうか。そうしておいて「自分たちは損しない仕組みをつく」っているのもまったく同じではないか。違いがあるとすれば、方や違法とされ方や合法の「公営」博打としてまかり通っているという、極論すればそのていどのことではないのか?
あるいは、そうして召し上げられたカネの行方(使い道)について同列にできないということはあるかもしれない。たしかに公営博打で集金された利益の一部が公共事業などに分配される仕組みになっている反面、違法賭博の利益がどうなるかはその会計を含め闇のなかだ。しかし、合法博打にしても、たとえばtotoの売上げが一時低迷したさいに、そのタテマエとされているスポーツ施設や組織などへの分配がゼロあるいは著しく削らされたことがあった(しかもその「スポーツ振興」とやらは、もともとあった助成制度を廃止したその代替であり、プラスアルファではけっしてない。*注1)。博打遊びを楽しんだり、いくらかの払い戻し金を手にするという「エンタテイメント」としての効果──それなら野球賭博と同じだ!──ならともかく、そのタテマエがじつはまったく機能していなかったことがあり、それは今後にも起こりうるのである。こんなのが合法博打として大手を振っているとは。
この賭博組織。初年度の売り上げ643億円をマークしたものの、その後は右肩下がりを続け、一時はその初期投資350億円(!)の償却すらままならなかったほどだったが、その低迷を打開すべく導入されたのがより博打性の高い「totoゴール」であり、競技場やコンビニ、ネットでの販売であった。より射幸心を煽り、購入を簡略化する。当然のことながら、購入を認められていないハズの未成年者が手を出すという図式だって浮かび上がってきているという。こんなシロモノを、こともあろうかわが国の教育を司るハズの文部科学省の所轄法人(独立行政法人・日本スポーツ振興センター。簡単にいえば一部特権者の天下り先であり、合法的集金システムに過ぎない)が率先して導入し運営を続けているのだから、こんなことでいかに違法博打がどうのと取り締まっても、モラルとしてもルールとしても、なんら説得力が感じられないというものだ。繰り返すけれど、元来「賭けごと(博打・賭博)」というのはヤクザこそが取り仕切ってきたものだ。それを上澄みのオイシイところだけを「合法」としてでっちあげる行政とは、いったい何者なのだろうか。なにやら相撲協会に対し合法博打の胴元である文部科学省が「苦言」の類を呈しているようだが(笑)。
話を戻して、今回露見した野球賭博事件は、もちろん法に則って解決されなければならないと思う。だが、スポーツ(大相撲をスポーツとは別の次元で捉える向きもあるが)を博打材料としている点では野球だろうが競馬だろうがサッカーだろうが本質的にはまったく変わらない。そのことを顧みるための、ひとつの機会がこの事件にあるではないだろうか(*注2)。
*注1:
積み重なる借金などの経費のためか、一時は売り上げの5%ていどすら助成金に回せなかったというお粗末。低迷したとはいってもその額は100億円単位。まさに「広く客を集め動かす金も大きい」だが、そのカネやはたしていかに?
*注2:
それにしても。「暴力団」「八百長の可能性」「法律上・違法」という3点を除いた場合、力士が遊んだといわれる野球賭博のどこがいけないのか、言い換えれば、「公営」「法律上・合法」という2点を加味しなかった場合、「toto」や競馬などとどこが違うというのか? 公共的な助成金に使われるから話は別だというのであれば、ヤクザのみなさん、ここはひとつ利益の一部をめぐまれないひとびとに寄付でもしてみたらどうか。何方道、博打というお遊びが原資である。胴元がどうだなのど究極的には関係ないのではないか?
こうした疑問について、残念ながら「東京新聞」の記事も明確な答えを示唆しているように読めなかったし、オレ自身もわからない。ついでにいえば「公営博打」に「八百長」が介在したことが皆無かどうかもわからないが……。
たとえば先発投手ひとつをとっても、これまでの成績にはじまり相手チームとの相性や前後数試合をからめたローテーションなどさまざまな要素があって組み立てられるけれど、胴元側がそうしたデータをもとにオッズを決めてゆき、そこにこそ勝ち負けのせめぎあいがあるという。賭金を張る側としては、試合カードそのものとともに胴元(オッズ屋)の実績や性格、そのときの腹のうちなどを勘案しつつ「投票」することになるわけだ。残念ながらやったことはないしやるつもりもないが、博打=ゲームとしてみた場合、たぶんに“面白さ”があるのではいかという気がする。
ところで、こうした博打は基本的には違法である。現実には仲間内で小銭を賭けてみたり、タテマエとしては現金の払い戻しがないとされているパチンコなどもお目こぼしにされてはいるが、これだって“運が悪ければ”立派にお縄を頂戴する。摘発されれば略式裁判などを経て前科がつくそうな。お目こぼし組のひとつである雀荘でときおりこうした“ガサ入れ”があるのもよく知られた話だろう。
今回、力士の博打が問題化したのは、まず第一にそれが暴力団がらみを疑われているからであり、第二にその額が数千万円を超えるらしいことがあり、第三が不祥事続きの大相撲ということがあるようだ。しかし、博徒という言葉があるとおり、博打はヤクザの既得権でありシノギであったのであろう。だから、そこに彼らが介在していてもなんら驚くには価しないと思うのだが、問題はそうした胴元がときに脅迫などをもって集金にいざこざを起こしたり、本来は勝手に賭に使われているだけの側に八百長を強要する可能性があるところにある。過去にいくつか明らかになったとされる八百長事件もあり、そうした行為の可能性を断つためにも、今回のような賭博を取り締まることの意味はあるのかもしれない。なにしろ違法行為として法にしばられていないだけに、その気と実力さえあればいかなるアンフェアなことだってできるハズ。しかし賭場などしょせんはそんなものではないのか?
6月16日づけの「東京新聞」が、「こちら特報部」でこの事件についてざっと触れている。書かれてあることはおおむね承知していた内容だったが、ちょっと面白い記述もあった。
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これは、黒木昭雄氏(ジャーナリスト)のコメントとして挿入された一文だが、主格「暴力団」を取り除いて再読してみていただきたい。「広く客を集め動かす金も大きい」というのならば、むしろJRAをはじめとする合法博打の胴元のほうがより顕著であろう。つぎの「賭け金から取り分を除き、勝った者に払い戻す」だって一緒。力士がやっていた賭博は1割の手数料(テラ銭)を胴元に納める仕組みだったというのだが、ではさて競馬や競輪、競艇などにおける事実上の「テラ銭」はいかほどなのかという疑問が湧く。サッカーJリーグを博打材料に仕立て上げたtotoなど、売り上げのおよそ半分が払い戻しの対象外として召し上げられている。これほど“法外”な集金システム(博打)がほかにどこにあろうか。そうしておいて「自分たちは損しない仕組みをつく」っているのもまったく同じではないか。違いがあるとすれば、方や違法とされ方や合法の「公営」博打としてまかり通っているという、極論すればそのていどのことではないのか?
あるいは、そうして召し上げられたカネの行方(使い道)について同列にできないということはあるかもしれない。たしかに公営博打で集金された利益の一部が公共事業などに分配される仕組みになっている反面、違法賭博の利益がどうなるかはその会計を含め闇のなかだ。しかし、合法博打にしても、たとえばtotoの売上げが一時低迷したさいに、そのタテマエとされているスポーツ施設や組織などへの分配がゼロあるいは著しく削らされたことがあった(しかもその「スポーツ振興」とやらは、もともとあった助成制度を廃止したその代替であり、プラスアルファではけっしてない。*注1)。博打遊びを楽しんだり、いくらかの払い戻し金を手にするという「エンタテイメント」としての効果──それなら野球賭博と同じだ!──ならともかく、そのタテマエがじつはまったく機能していなかったことがあり、それは今後にも起こりうるのである。こんなのが合法博打として大手を振っているとは。
この賭博組織。初年度の売り上げ643億円をマークしたものの、その後は右肩下がりを続け、一時はその初期投資350億円(!)の償却すらままならなかったほどだったが、その低迷を打開すべく導入されたのがより博打性の高い「totoゴール」であり、競技場やコンビニ、ネットでの販売であった。より射幸心を煽り、購入を簡略化する。当然のことながら、購入を認められていないハズの未成年者が手を出すという図式だって浮かび上がってきているという。こんなシロモノを、こともあろうかわが国の教育を司るハズの文部科学省の所轄法人(独立行政法人・日本スポーツ振興センター。簡単にいえば一部特権者の天下り先であり、合法的集金システムに過ぎない)が率先して導入し運営を続けているのだから、こんなことでいかに違法博打がどうのと取り締まっても、モラルとしてもルールとしても、なんら説得力が感じられないというものだ。繰り返すけれど、元来「賭けごと(博打・賭博)」というのはヤクザこそが取り仕切ってきたものだ。それを上澄みのオイシイところだけを「合法」としてでっちあげる行政とは、いったい何者なのだろうか。なにやら相撲協会に対し合法博打の胴元である文部科学省が「苦言」の類を呈しているようだが(笑)。
話を戻して、今回露見した野球賭博事件は、もちろん法に則って解決されなければならないと思う。だが、スポーツ(大相撲をスポーツとは別の次元で捉える向きもあるが)を博打材料としている点では野球だろうが競馬だろうがサッカーだろうが本質的にはまったく変わらない。そのことを顧みるための、ひとつの機会がこの事件にあるではないだろうか(*注2)。
*注1:
積み重なる借金などの経費のためか、一時は売り上げの5%ていどすら助成金に回せなかったというお粗末。低迷したとはいってもその額は100億円単位。まさに「広く客を集め動かす金も大きい」だが、そのカネやはたしていかに?
*注2:
それにしても。「暴力団」「八百長の可能性」「法律上・違法」という3点を除いた場合、力士が遊んだといわれる野球賭博のどこがいけないのか、言い換えれば、「公営」「法律上・合法」という2点を加味しなかった場合、「toto」や競馬などとどこが違うというのか? 公共的な助成金に使われるから話は別だというのであれば、ヤクザのみなさん、ここはひとつ利益の一部をめぐまれないひとびとに寄付でもしてみたらどうか。何方道、博打というお遊びが原資である。胴元がどうだなのど究極的には関係ないのではないか?
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ここではおもに時事ネタを中心に独断と偏見にて雑感を記してゆきます。本館サイトアトリエ猫池ともどもお楽しみください。
なお、トラックバックおよび「コメント」は受けつけない設定にしております(当面はBBSへどうぞ!)。
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