本が売れないというのは、もはや陳腐化した常套句のようなものだが、いうまでもなく厳しいのは出版業界の専売特許ではない。もとより、売れないなどとボヤいているワケにもいかないので、書店を眺めるのも大事な仕事といえるだろう。
しかし食指が動かない……。本を読むのは日常の話なので、本そのものは買っているには違いないのだが、問題は仕事上の主要なジャンルである旅行モノにおいてとくにそうだということである。
都内のとある中規模書店の店頭。スカイツリー(*注1)の雨あられ。ただし、“旬”めいたのはほぼそれだけである。新規開業するうえに観光地としてわが国最大のメディア企業までがこぞって宣伝しているので、あの電波塔の案内書が並ぶのは至極あたりまえ。新しモノ好きのひとは大勢いるわけだし、ちょっとした興味で手にとってみる購買者だっているだろうからだ。しかし、店頭をみていると、ほかに売り出したいモノがないのだろうかといささか気が滅入ってしまった。
ではほかはどうか。いわく世界遺産やら産業遺産やら古い街並散歩やら……。この産業遺産や古い街並をというのは比較的最近になって注目されてきたジャンルともいえそうだが、ターゲットそのものが過去の物件(いちおう現役物件も含まれるが)だというあたりに興味がわく。デカタンとまではいえないにせよ、どうも一斉に過去を向いているというのは気のせいだろうか。「鉄道ジャーナル(04年10月号)」で、鉄道趣味が懐古主義と化していることを鍋倉紀子氏が指摘しているが、もはや鉄道云々ではないということなのかもしれない(念のため。ここでは店頭からみる供給者側の思考と読者のニーズを窺っているのであり、それぞれの内容について疑問を投げかけているのではありません。個人的にも産業遺産には興味があるし、古い街並を歩くのだって面白い)。
一方で、カタログスタイルの汎用旅行案内書もまだまだ健在だ。韓国モノがやや目立つのは時流だろうが、代わり映えしないのがこのジャンルといえよう。あるいは内容に工夫や差別化がはかられているのかもしれないが、店頭風景という点からすれば化石の陳列のようですらある。実際にはより新しいものを拾ってきているのがこのジャンルなのかもしれないのだが。
そんなことをつらつら考えつつ、書庫から古い旅行雑誌を引っ張り出してみた。驚いたことに雑誌そのものが読み物になっている。たとえば「旅」(日本交通公社)の79年10月号を開くと、向田邦子、佐々木隆三、足立倫行、井上光晴といったそうそうたる書き手が紀行ルポやエッセイなど“旅の読み物”を寄せている。誌面全体の傾向としても、カタログ的発想は刺身のつまていどで、むしろ旅を題材とした文芸誌のようでもある(*注2)。読みながら、「そうそうそうなのよ!」とかつて刺激された自分を思い出したものだ。
ひるがえって現代はどうだろうか。どうも旅立ちを誘う役割をハナっから放棄しているのが、昨今の旅行出版物のような気がする。後追いの工夫はするけれど、開拓精神が希薄ということはないか。しかしこんなことは、ほかならぬ自分自身が自らを戒めればいいことかもしれないが、ぁあ、79年の雑誌を引っ張り出すってのも懐古主義なのかなぁ。それでもなんだか寂しいなァ……。
※注1
このスカイツリー。建設費は政党助成金のほぼ2年ぶんだとか。「身を切る」などとウソぶいている連中が、ホントにその気になりさえすればたった2年ぶんであれだけのモノができるのである。どっちもどっちだという見方もあるかもしれないが。
スカイツリーについていえば、ちょっと騒ぎすぎなんじゃありませんかね、とくにNHKさんよ。で、そのNHKの国会中継を久々にみてみた(タマタマだが)。質問に立っていたのは佐々木憲昭議院(共産)だったが、答弁する安住淳財務大臣のお粗末ぶりが見事で、つい質疑応答の最後までつきあってしまった次第。なんつうか、あからさまな論点そらしのオンパレード。佐々木氏も呆れていた様子だった。アレが狙ったものならちょっとしたタヌキだが、とてもそうは思えず、ようはよくもまぁあんなので大臣が務まるものだというところだ。必要とされうる素養や知識という点では、以下に挙げたベンダサン氏と同レベルかつ同類であり、悪いけれどなんども大爆笑してしまいMASITA。しかし、あんなんじゃ、財務省の“エリート”らにはとても歯が立たないだろうねぇ。官僚にとってはむしろ好都合なのだろうが……。ぁあ、話がそれました(笑)。
※注2
本題とは関係ないが、同誌にあの山本七平氏の連載エッセイがある。題して「虚構の書『台湾誌』を旅する」。リードによれば、台湾生まれの日本人を自称した兵隊が18世紀初頭のオランダ軍にいて、彼が「すすめられるままに」『台湾誌』という本をつくったのだそうだ。「ところがその書は全くのデッチ上げだという風評が立」ったらしい。だがしかし……というのがこの連載の主題のようだ。いちいち読むヒマもないが。
それにしても故・山本氏とは冗談の天才だったのか。神戸生まれのユダヤ人を自称した元日本軍少尉。虚構を積み重ねたペテン書で世の右傾化をあおり、かつ荒稼ぎしたのはいったいだれだったのかしらん(笑)? その『台湾誌』とやらを使って自己弁護でもしたかったのかどうかはわからないが、うらやましいほどの鈍感ぶりではないか。ちなみに、いまなおそのペテン書は件の店頭にも(それも平台に! しかもノンフィクションとして!)並べられて無垢の読者をケムに巻きつづけているのである。三十余年を経て、書庫の底から笑いを提供してくれたイザヤベンダサンどのに乾杯!
都内のとある中規模書店の店頭。スカイツリー(*注1)の雨あられ。ただし、“旬”めいたのはほぼそれだけである。新規開業するうえに観光地としてわが国最大のメディア企業までがこぞって宣伝しているので、あの電波塔の案内書が並ぶのは至極あたりまえ。新しモノ好きのひとは大勢いるわけだし、ちょっとした興味で手にとってみる購買者だっているだろうからだ。しかし、店頭をみていると、ほかに売り出したいモノがないのだろうかといささか気が滅入ってしまった。
ではほかはどうか。いわく世界遺産やら産業遺産やら古い街並散歩やら……。この産業遺産や古い街並をというのは比較的最近になって注目されてきたジャンルともいえそうだが、ターゲットそのものが過去の物件(いちおう現役物件も含まれるが)だというあたりに興味がわく。デカタンとまではいえないにせよ、どうも一斉に過去を向いているというのは気のせいだろうか。「鉄道ジャーナル(04年10月号)」で、鉄道趣味が懐古主義と化していることを鍋倉紀子氏が指摘しているが、もはや鉄道云々ではないということなのかもしれない(念のため。ここでは店頭からみる供給者側の思考と読者のニーズを窺っているのであり、それぞれの内容について疑問を投げかけているのではありません。個人的にも産業遺産には興味があるし、古い街並を歩くのだって面白い)。
一方で、カタログスタイルの汎用旅行案内書もまだまだ健在だ。韓国モノがやや目立つのは時流だろうが、代わり映えしないのがこのジャンルといえよう。あるいは内容に工夫や差別化がはかられているのかもしれないが、店頭風景という点からすれば化石の陳列のようですらある。実際にはより新しいものを拾ってきているのがこのジャンルなのかもしれないのだが。
そんなことをつらつら考えつつ、書庫から古い旅行雑誌を引っ張り出してみた。驚いたことに雑誌そのものが読み物になっている。たとえば「旅」(日本交通公社)の79年10月号を開くと、向田邦子、佐々木隆三、足立倫行、井上光晴といったそうそうたる書き手が紀行ルポやエッセイなど“旅の読み物”を寄せている。誌面全体の傾向としても、カタログ的発想は刺身のつまていどで、むしろ旅を題材とした文芸誌のようでもある(*注2)。読みながら、「そうそうそうなのよ!」とかつて刺激された自分を思い出したものだ。
ひるがえって現代はどうだろうか。どうも旅立ちを誘う役割をハナっから放棄しているのが、昨今の旅行出版物のような気がする。後追いの工夫はするけれど、開拓精神が希薄ということはないか。しかしこんなことは、ほかならぬ自分自身が自らを戒めればいいことかもしれないが、ぁあ、79年の雑誌を引っ張り出すってのも懐古主義なのかなぁ。それでもなんだか寂しいなァ……。
※注1
このスカイツリー。建設費は政党助成金のほぼ2年ぶんだとか。「身を切る」などとウソぶいている連中が、ホントにその気になりさえすればたった2年ぶんであれだけのモノができるのである。どっちもどっちだという見方もあるかもしれないが。
スカイツリーについていえば、ちょっと騒ぎすぎなんじゃありませんかね、とくにNHKさんよ。で、そのNHKの国会中継を久々にみてみた(タマタマだが)。質問に立っていたのは佐々木憲昭議院(共産)だったが、答弁する安住淳財務大臣のお粗末ぶりが見事で、つい質疑応答の最後までつきあってしまった次第。なんつうか、あからさまな論点そらしのオンパレード。佐々木氏も呆れていた様子だった。アレが狙ったものならちょっとしたタヌキだが、とてもそうは思えず、ようはよくもまぁあんなので大臣が務まるものだというところだ。必要とされうる素養や知識という点では、以下に挙げたベンダサン氏と同レベルかつ同類であり、悪いけれどなんども大爆笑してしまいMASITA。しかし、あんなんじゃ、財務省の“エリート”らにはとても歯が立たないだろうねぇ。官僚にとってはむしろ好都合なのだろうが……。ぁあ、話がそれました(笑)。
※注2
本題とは関係ないが、同誌にあの山本七平氏の連載エッセイがある。題して「虚構の書『台湾誌』を旅する」。リードによれば、台湾生まれの日本人を自称した兵隊が18世紀初頭のオランダ軍にいて、彼が「すすめられるままに」『台湾誌』という本をつくったのだそうだ。「ところがその書は全くのデッチ上げだという風評が立」ったらしい。だがしかし……というのがこの連載の主題のようだ。いちいち読むヒマもないが。
それにしても故・山本氏とは冗談の天才だったのか。神戸生まれのユダヤ人を自称した元日本軍少尉。虚構を積み重ねたペテン書で世の右傾化をあおり、かつ荒稼ぎしたのはいったいだれだったのかしらん(笑)? その『台湾誌』とやらを使って自己弁護でもしたかったのかどうかはわからないが、うらやましいほどの鈍感ぶりではないか。ちなみに、いまなおそのペテン書は件の店頭にも(それも平台に! しかもノンフィクションとして!)並べられて無垢の読者をケムに巻きつづけているのである。三十余年を経て、書庫の底から笑いを提供してくれたイザヤベンダサンどのに乾杯!
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ここではおもに時事ネタを中心に独断と偏見にて雑感を記してゆきます。本館サイトアトリエ猫池ともどもお楽しみください。
なお、トラックバックおよび「コメント」は受けつけない設定にしております(当面はBBSへどうぞ!)。
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