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猫池罵詈雑言雑記帳
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「ねぇ、ボクさぁ、オジサンのところにとってもすごいゲームがあるんだけど遊びに来なかい?」
「行く! 行く!」
 あるブログの記事を目にして思いついた誘拐シーンである。

 まぁ、「知らないおとなについて行かないように」という教育はオレが幼少のころにもあったし、相変わらず子どもへの犯罪がなくならないという現状にあっては、まずはこんな誘いに乗ってはいけないということはある。しかしだからといってこうした甘言にそそのかされてついていった子どもが誘拐されたとして、「ついていったほうが悪い」ということはいえないだろう。つい先ごろ、少女にわいせつ行為を働いて逮捕された男が、ついてきた被害者がいけないのだように証言して雑報を賑わせたが、わいせつはわいせつ、誘拐ならば立派な誘拐事件である。

 これはなにも子ども相手じゃなくともいえることで、盛り場などのポン引きが取り締まられていることなどをみても、騙して誘う側にまず問題があるというのが一般的認識といえる。「ゼッタイ儲かりますよ〜」の類の詐欺も同様である。ポン引きにせよ詐欺にせよ、なかにはたしかに乗せられる側の“スケベ心”がある場合があり、引っ掛かる側にスキがないともいえないけれど、詐欺は詐欺であり恐喝やら誘拐があればもちろんやった側の犯罪が問われる。あたりまえのことであろう。

 ところが、誘拐・拉致に関連する事件に関して、騙されてついていったほうがいけないから詐欺でも誘拐でもなんでもないという論に遭遇した。わが目を疑うとはこのことである。  



 件の記事は「日刊ベリタ」にリンクされていた外部記事のひとつ。「朝日新聞は歴史認識を語れ」と題された記事は、朝日新聞東京本社編集局長の外岡秀俊氏への“書簡”ふうに述べられたもので、アメリカ合州国下院で採択された「従軍慰安婦非難決議」についての私感である。このなかで、元慰安婦だったという金学順さんについて、かつて件のブログ筆者が取材をしたところ、たしかに慰安所にはいたが、これは義父に連れていかれたものだったという例を示し、金さんについて「朝日」が「国家の関与を証明」したことが「明白な」誤報であるというのである。誤報とされることについて「朝日」が「枝葉の問題だ」との社説を載せたことも紹介されているが、枝葉の問題という部分についてどちらの理解が事実に沿うのかどうかは別として、仮にブログ記事のとおりであれば、たしかに「朝日」の側にも脇の甘さがあったといえるかもしれない。

 リンク記事によれば、
 私も1991年に終戦企画を担当し、取材班は国内と韓国で1ヶ月にわたって「強制連行」の取材をしました。当時のわれわれも「軍が朝鮮人の首に縄をつけて引っ張ってきた」という証言をさがしたのです。
 しかしそういう証言は、数十人の男女の中で1人もなく、出てきたのは「高給につられて出稼ぎに行ったら、タコ部屋に入れられて逃げられなかった」といった話ばかりでした。
(赤字:同記事から引用)
 というのだが、どうやら「だから強制連行の事実はなかった」ということらしい。騙されて監禁されて強制的に売春させられたことにはかわりはないし、それは日本軍のための施設だったんですがね(軍直轄の施設だったかどうかという見方はあるにせよ、軍の利用ということで国が認めていたということはいえる。詐欺的求人の類や監禁などを把握していなかったというのは管理の問題でもあり、言い逃れにもなりますまい。年金問題などにも通ずる常識である)。こういうのを強制連行とはいわないのだろうか? そして、「売春を強制するよう命じた軍の文書は1枚も」みつかっていないから、慰安婦(被害者)の証言が「いくらあろうと、軍命の証拠にはなりません」というのである(ブログには「1枚もない」となっているが、今後に出てくる可能性はあるし、命令が文書だけによったという証拠もなかろう。また、軍はとにかくとして、じゃぁ経営していたハズの“民間人”については取材をしたのかなという疑問も浮かぶ)。

 ここでいう“証拠”とは、いちおうは「国家賠償訴訟」の場におけるそれを前提としているようだが、なんとも驚くべき杓子定規なセンスといっていい。そもそもがわが国の司法の場における前例はどうなんでしょうね? ブログ氏の主張にそえば痴漢のえん罪などもいくらかは減りそうですなぁ……ついでながら。
 しかも日本と韓国でのわずか1カ月、数十人にすぎない証言収集によってである(もちろん期間や規模だけの問題ではないが)。おそらくブログ氏も悲惨な証言やら訴えやらを聞いたことと思うが、「気の毒な公娼の身の上話にすぎない。」と片づけちゃうのだから、ジャーナリスト気取り以前の問題として人間としての資質を疑いたくなる。

 ちなみに、リンクをご覧いただければわかるとおり、件のブログ氏とは池田信夫というひとである。なにものかさっぱり知らなかった(本当)なので検索サイトで調べてみたところ、このテの論をあちらこちらで張っているのはいいとして、賛否両論以前の問題としてある種、稚拙な論者として捉えられるムキのある御仁らしい。当然のこととして反動側には重宝され人気があるようだが。
 件の記事については、ここでも「朝日」の脇の甘さを疑っているとも記したし、主張の枝葉の部分については理解できないわけでもない。「慰安婦問題についての歴史的な事実を(社説ではなく)記事で実証的に検証してはいかがでしょうか」という“問いかけ”もわかる。しかし、体裁としては「朝日」の編集局長宛の“書簡”的に記されてあっても、これがアメリカ合州国での決議に対するアンチテーゼであり、従軍慰安婦の強制はなかったのだとする意見記事であることは明らかである(「国内では、この問題についての事実関係は、ほぼ決着がついたと思います」だってさ……。勝手に思っていてください)。はたしてアメリカ合州国での決議を「戦後60年以上たって、こんな荒唐無稽な決議が出てくる」と断じているけれど、荒唐無稽などと片づけるあたりに池田氏の立場が明白に現れている。

 アメリカ合州国での決議については後日あらためて考えてみたいが、以前記したとおり、これが必ずしも人道的な考えにのみ基づくものだとは思っていない(07年3月16日)。だが、いわゆる親米“靖国派”らにとってはアタマの痛い問題ではあろう。その頭痛を誤魔化すべく池田氏のような論が出てくるんじゃないかと思うのだがいかがなものか。



*おまけ:
 なお、アメリカ合州国議会で問題にされているのは日本の従軍慰安婦問題だけでなく、チベットにおける人権蹂躙問題などについても俎上に挙げられている。まぁ、イラクやアフガンその他もろもろについてどうなのかという疑問もわいてはくるが……。

 それはそれとして、Y&Sのヒステリーぶりはどうですかねぇ。
http://www.j-cast.com/2007/06/28008822.html
 Sにいたっては中国による“謀略”説めいた論評もどきを紙面に載せちゃってるんだからなにをかいわんやであろう(落合信彦氏あたりを論説委員のトップにでもしたらいかが?)。そんなことをつらつら思っていたら、同日の「日刊ベリタ」にはこんなリンク記事も追加されていたので紹介しておきたい(たいへん参考になった)。
「往生際が悪い日本の右派勢力 米下院外交委「慰安婦決議」を直視すべきだ」(むじな@台湾よろず批評ブログ)

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